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プロフェッショナルの感性を刺激する旅Vol.25~彫金師・稲田和哉さんの小笠原諸島

プロフェッショナルの感性を刺激する旅先と、その思い出をお聞きするインタビューコンテンツ。今回は、彫金師の稲田和哉さんに、お仕事に対する思いや、人生の岐路となった小笠原諸島の魅力について伺います。

台東区谷中で、「ライムライト」という小さなジュエリーショップを営む稲田和哉さんは、祖父の代から続く彫金師の家系に生まれ育ちました。大正時代に水戸彫金の流れを汲んだ一族が東京・谷中に移り住み、銀器や宝飾品に彫り柄を施す仕事を請け負い始めたのだといいます。

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「元々の家業は、指輪や宝飾品などに日本的な絵柄を施す“和彫り”と、隙間なく同じ模様を連続させていく“洋彫り”で、そのどちらも彫刻刀でひとつひとつ丁寧に彫り込んでいくもの。さらに私の師匠、実は私の叔父にあたるのですが、彼が専門としていた彫刻刀を使って小さな宝石をひとつひとつ埋め込んでいく“石留め”の技術も身に着けていきました」

宝飾加工業界においては、従来はそれぞれの作業が分業で進められていたといいます。以前は、稲田さんも大手宝飾メーカーから彫りと石留めの仕事だけを請け負っていましたが、1999年に自らのショップをオープン。エンドユーザーに近い場所で、デザイン、製作、仕上げまでの全工程を手掛けていきたいと考えたといいます。

「これまで培ってきた技術力を生かしつつ、もっとお客様が求める作品を提供していきたいという思いから、オーダーメイドジュエリーの製作やリフォームを手掛けるようになりました」

宝飾品のリフォームといっても、稲田さんが手掛けるものは、もはや“再生”や“手直し”の範疇を超越。もちろん、ユーザーの要望に合わせての提案にはなりますが、引き出しの奥で眠っていた宝飾品に、まったく新しい命を吹き込んでいるように見えます。

「お母様から受け継がれた大切な指輪を、使いやすいもの、自分にあったものへとリフォームする場合にサイズ変更だけではなく、まるっきり新しいデザインに作り替えることも多いです。また指輪をベースにまったく別なジュエリーアイテムにも作り替え、生まれ変わらせることも可能です。心がけているのは、そのジュエリーが他にはない“オンリーワン”の存在であること。そのためにはお客様のイメージをじっくりお聞きして、職人の技術も駆使しながら、できるかぎり忠実に再現していきます」

要望のヒアリングには、じっくり時間をかけるのだといいます。それを一度、文章化してニュアンスの違いを埋めながらコンセプトを固め、お客様と共有したうえでラフ絵を描いて提案。様々な要望を形にするためには、モチーフのアイデアが詰まった引き出しの数がキーになります。

「表現のアイデアは常日頃から蓄積するよう心がけています。私の場合、新聞と女性雑誌の気になる記事をスクラップしておいて、それを読み込むことで着想を得ています」

宝飾デザインに直接関連性のない内容でも、例えばファッションや料理、アート、新しいショップの情報といったものから、書籍情報やアカデミックなものまで、気になったものはすべてストック。とにかくアンテナを広げておいて、それらの情報と自分がもっている技術をどのように融合させるか、スクラップを見返しながら考えるのだといいます。

「そうするとこれまで自分が持っていた知識の枠を超えて、新しい提案が生まれてきます。私たちが扱っているジュエリーはお客様にとって特別なものであるのは間違いありません。だからこそ、あらゆる情報と想像力を駆使して、お客様の要望を正しくくみ取るのはもちろん、これからお客様がどのような時間を、どのような空間で過ごされるのか、そこまで想定したうえでご提案申し上げたいのです」

小笠原の暮らしの中で見えてきたもの

学生時代からスキューバダイビングの魅力に取りつかれ、将来的には海に関係する仕事がしたいと思っていたという稲田さん。家業を継ぐという気持ちなど、正直、ほとんどなかったといいます。

「当時はスキューバのインストラクターで食べていけるような時代ではなかったのです。そこで、海洋建設の会社に入社して、海中調査の仕事に従事したのですが、やはり違和感を覚えるのですよね、これではないなと。3年ほど勤めて会社を辞めて、ちょうどいい機会だからと、妻と一緒に小笠原諸島への旅に出たんです」

小笠原に行くには、往復だけで一週間は必要だった時代。会社を辞めたこのタイミングでなければ、ゆっくり滞在もできないだろうと考え、現地で1ヶ月ほど暮らすような旅を楽しんだのだといいます。

「ちょうど雨季に当たりまして(笑)、ほとんど何もできませんでした。朝起きて、どこに行く当てもないですから、宿でのんびりと雨を眺めていたり、傘をさしてぶらぶらしたり。時々、宿のオーナーの船に乗ってダイビングポイントまで行って潜る。そんな気ままな暮らしを続けていました。今、考えるとものすごく贅沢な時間の使い方をしていましたね」

学生時代には、父島で一か月間ほど住み込みのアルバイトをしながら過ごした経験があるという稲田さん。島の暮らしの心地よさは元々理解していたのだといいます。

「しかし、学生とは違う目線で、島の暮らしを見るようになっていましたね。当時から、島の生活に会社はありませんでしたから、通勤するサラリーマンの姿がない。一部、役所の方とか学校の先生とか、電気・ガスなどインフラを管理する方々以外は、皆さん、本当に好きなように、島と共に力強く暮らしている。そこで仕事と生きることの接点が見えてきたような、そんな気がしてきたのです」

仕事って何だろう?仕事=お金を稼ぐことではないのではないか?仕事=生きることなのではないかと、稲田さんはそう思い至ります。

「自分の仕事に価値観を見出し、お金を払ってくれる人がいればいい。すなわち、自分の生き方に共感してくれる人も持つということが、自分らしく生きることへ繋がるのだと感じたのです」

そこで稲田さんははたと気がつきます。そういえば、自分の周りには、彫金という技術に価値が認められて生きている人たちがたくさんいるじゃないかと。

「そう思ったときに、やはり彫金の世界に飛び込んでみようと決意しました。小笠原から帰った25歳の時に家業を継ぐことにして、叔父の元へと弟子入りを果たしたのです」

家業を継ぐと決意してからというもの、稲田さんの技術的センスは一気に開花します。普通の人であれば半年かかって習得するといわれている技術が、わずか一か月間で身についてしまう。周囲の職人たちに驚かれ、そしてレベルの高い仕事がどんどん任されるようになったのだといいます。

「やはり血、なのでしょうね。確かに遺伝的要素も大きいかもしれませんが、私の場合、環境的な要素もあるかと思っています。“職”という文字には“耳”と“音”、そして武器を表す字が入っていますが、要するに耳で聞いた音を武器にするのが職人であると理解します。小さなときに仕事場が遊び場だった私の耳には、職人たちの彫刻刀の音やリズムが染みついていたのでしょうね。その音の違いによって、彫刻の深さや浅さがわかるくらいになっていましたから」

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長崎県五島列島でチャレンジ

そんな稲田さんが、今注目している旅先は長崎県五島列島。残されている教会群と島々を巡りたいのだといいます。

「海が好きなのはもちろん、日本にはじめてキリスト教が伝来した、新しい文化のスタートラインをじっくり見てみたいとも思っています。また37歳からトライアスロンを始めていて、いつかは五島列島で開催されているロングトライアスロンのレースに挑戦してみたいという思いもあります」

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今年は20年ぶりに小笠原を訪れたという稲田さん。自分が知っている小笠原と知らない小笠原の両面が見ることができたといいます。

「同じところに何度も足を踏み入れると、その変化を楽しむことができる。変化をキャッチすることで磨ける感性があると思うのです」

例えば鉢植えであれば、毎日、定点観測のように眺めていれば、日々、わずかな変化を見て取ることができる。逆に、同じ絵を見続けたら、絵そのものは姿かたちを変えるわけではないので、見ている自分自身の変化がわかるといいます。

「数年前に見た時には気づかなかったこと、感じなかったことが見えるようになる。私たちが扱うジュエリーも、お客様が長い期間に渡って何度も何度も眺めるものです。目にするたびに新しい発見がある、そんな深みのある作品作りを目指したいと思っています」

稲田さんにとっての旅とは、永遠に維持される美を追求するために、感性をリセットする大切な機会なのかもしれません。

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