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プロフェッショナルの感性を刺激する旅Vol.11~料理道具コンサルタント・荒井康成さんのフランス・ブルゴーニュ

プロフェッショナルの感性を刺激する旅先と、その思い出をお聞きするインタビューコンテンツ。今回は、料理道具コンサルタントとして幅広い活躍をされている荒井康成さんに、自らの仕事に対する姿勢や、フランス・ブルゴーニュの魅力についてお話を伺います。

日本でたった一人の料理道具コンサルタントとして、唯一無二の活動を続けている荒井康成さん。料理道具コンサルタントとは、特定のメーカーやブランドに偏ることなく公平な立場から、日本はもちろん世界各国の料理道具や調理家電の魅力を伝える水先案内人です。活躍のステージは、書籍や雑誌、WEBにおける記事執筆や監修にとどまらず、スタイリングや撮影、またスクールの講師など多岐にわたり、そのマルチな才能を遺憾なく発揮。近年は大手家電メーカーがSNS上で展開する、調理家電シリーズのCMを担当。その魅力的なスタイリングが話題を集めています。

「道具や家電製品が生活の中でどのように使われているのかを表現するために、リアルな道具のシズル感を見せることが求められています。私はその要望に応えるため、機能のもっと先にある、道具によって実現できる豊かなライフスタイルを見せることを意識しながらコーディネートしています」

各メーカーから寄せられるこういった要望は、現在の消費者の生活趣向にしっかり寄り添ったものだといいます。

「世の中の価値観が大きく変わり、ブランド品を他人に見せびらかして満足するというより、“自分暮らし”を豊かに深めていきたいと考える人が増えていると感じています。ですから、ただおしゃれだったり、見栄えが良いという外見的な要素だけを求めるのではなく、使って愛着がわく道具に対する関心が高まっているのです」

その要因のひとつとして、大量生産・大量消費を良しとしていた時代よりもっと前、人々の気持ちの中にあった、使い捨てではない、“一生モノ”を求める消費意識への原点回帰があるのではと荒井さんは分析します。

「良い道具の基準というか、価値は本当に人それぞれ違います。私が教える学生たちに聞いてみても、“小さなとき、親に買ってもらったキャラクター食器がいまだに捨てられない”とか“祖父の家から伝わっているかつおぶしけずりが大切”など、全員が全員違った答えが返ってきます。私は、そういった道具にまつわるストーリーや人の思いに惹かれますし、それらの要素が詰まっているからこそ使い続け、思い出を守っていく。それが“一生モノ”の正体だと思うのですね。そんな運命的な道具を見つけ出す手助けをするのが、料理道具コンサルタントの役目だと自覚しています」

フランス・ブルゴーニュから始まった

そんな荒井さんの人生を変えた旅先は、フランス・ブルゴーニュのマルシニという小さな町。料理コンサルタントとして独立を果たす前、世界的に有名な耐熱陶器メーカーに勤務していた時代に訪れた場所だといいます。

「パリからTGVに乗って2時間の最寄り駅から、さらに乗り合いのワゴンに乗って150kmばかり行った場所にあります。私が勤めていたエミールアンリ(Emile Henry) という世界的に有名な陶器メーカーの本社と工場があり、住民の4割がそこに勤めているような企業城下町でした。27歳の時に、そこで一週間、まるで総合格闘技の選手のように屈強な身体の職人たちに交じって、製造研修を受けたのでした」

荒井さんはまったくフランス語が話せなかったし、現地の人は日本語はもちろん、英語すら話せないという状況。初日、工場の人々は“日本人なんて初めて見た”というような視線を送ってきたのだといいます。

「ところが休み時間になると、若い職人がノートとペンを持ってきて、身振り手振りで何かを描けと伝えてくる。そこで、日本の漫画のキャラクターの絵を描いたらすごく喜んでくれて。言葉は通じなくても、それから仲良くなってリンゴを剥いて食べさせてくれたり、パンを持ってきてくれたりしたのです。後でわかったのですが、彼らにとって食はコミュニケーションツールのひとつだったんですね。言葉をしゃべれる、しゃべれないではなくて、一緒に食べているか、いないかのほうが重要で、食事の時間を一緒に過ごすことがコミュニティの条件のようになっていたのです」

フランス人の目に映る日本人は、衣・食・住の順に大切にしているように見えているといいます。

「見本市などで日本人と商談すると、彼らは一様に驚くというのです。“食べるのが早すぎる。なんであんなにぱっと食べて仕事に戻るのか理解できない。でも、着ているものは高価だね”と(笑)。フランス人は衣・食・住ではなく、食・住・衣といった優先順位になっているから、まずは食べることを重視する。その町は田舎だったせいか、朝昼晩と平気でワインを飲んでゆっくり食事を楽しむし、会社のミーティングも必ずランチミーティングが設定されていました」

改めて、人と食事を共にする楽しみを再認識したという荒井さん。帰国後に、マルシニでの経験にインスパイアされ、自宅に友人を集めてホームパーティーを主催したといいます。

「輸入食器メーカーに勤めていたこともあって、自然に業界関係者が集まってきましたね。元々、料理道具に興味があって個人的に買いそろえていたんで、それらを活用した料理をふるまっていたんです。ある時、キッチングッズ売り場で働いていた女性が、自分が販売している道具でありながら、使い方を理解しておらずに、私の料理を見て感動していたんですね。これって、どうなんだろう?って思いました」

確かに、輸入されていた料理道具の説明書は味気ないものだったし、当時は、おしゃれだからという理由で購入しても実際に使わず、飾りにしていた人も多い時代だったのだとか。

「せっかくの道具なので使ってもらいたい。使ってこそ価値があると思っていたので、じゃあ、使い方を網羅した本を出してみようと思いたちました。独立と同時期に発行した「ずっと使いたい 世界の料理道具」が今の私の原点となったのです」

さらにもうひとつ、フランスの田舎で学んだことがあったという荒井さん。

「小さなオーベルジュに宿泊していたのですが、そこでは本当に使い古されていたり、ちょっと欠けているような食器や調理道具が使用されていました。でも、それを見て不快になるんじゃなくて、雑然としたカッコよさみたいなものを感じたんですよね。“使うことで生まれる美しさ”を体感した瞬間だったし、それが今、私が実施するコーディネートの根底にある、確かな感覚になっているのです」

フランス行き航空券をチェック

アメリカ映画の中に見る魅力的な料理道具

荒井さんが今、強く訪れたいと思う旅先は、やはりフランスのブルゴーニュ・マルシニなのだといいます。

「当時はまだ若かったし、余裕もなくて、駆け足で日々を過ごしていたと思うのです。しかも、まっすぐしか向いていなかったですし。この年齢になって、少しスピードを落とし、当時、見落としていたものをひとつひとつ確認したいと思うのですよね」

荒井さんが旅先で触れたいのは、その地方その地方独特の食文化、道具の使われ方なのだとか。そういった意味では、アメリカにも強く惹かれるのだといいます。

「今思えば、道具への憧憬の原点はアメリカの映画にあったと思うのですよ。最近、リバイバル上映される作品を鑑賞すると、70年代の映画にスタンレーのボトルが登場したり。80年代の『フラッシュダンス』の出会いのシーンでもスタンレーが登場しました。こういう風に使われるんだ、こんなに長く愛されているんだ、じゃあ、家庭の中ではどのように溶け込んでいるんだろうか?って。興味は尽きません。そうそう『クレイマー・クレイマー』にもロッジのフライパンが登場しましたし(笑)。そんなことばっかりが気になるんです」

アメリカ行き航空券をチェック

料理道具を愛して止まない荒井さんにとって、旅は尽きせぬ興味の源流を探る、検証のひとつなのかもしれません。

荒井康成さん https://www.facebook.com/yasunari.arai http://www.araitools.com/

インタビュアー:伊藤秋廣(エーアイプロダクション

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