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プロフェッショナルの感性を刺激する旅Vol.10~クリエイティブディレクター・成田冠さんのアメリカ・ポートランド

プロフェッショナルの感性を刺激する旅先と、その思い出をお聞きするインタビューコンテンツ。今回は、クリエイティブディレクターとして、街づくりに参画する成田冠さんに、自らの仕事に対する思いや、アメリカ・ポートランドの魅力についてお話を伺います。

街の再開発には、その地域のポテンシャルに見合ったコンセプトが必要だと言われています。クリエイティブアウト代表の成田冠さんは、プレイスメイキング、シティブランディング、シティマーケティングなど様々な要素をつなぎながら、その全体像をディレクションしています。

最近では、神奈川県の武蔵小杉駅前の再開発にあたり、そのコンセプトづくりの一環として、"コスギコンビビアルプロジェクト"を発足。"コンビビアル=和気あいあい"という言葉が表すように、多種多様なイベントやワークショップを通して、街の住民はもちろん、武蔵小杉に集う多くの人々のコミュニケーションを促進しています。その結果、2016年度版の「住みたい街ランキング関東版」では、恵比寿、吉祥寺、横浜に次いで、第4位を獲得。武蔵小杉を人気の街へと躍進させた“仕掛け人”として注目を集めています。

「僕らは、モノもコトもクリエイティブしていますが、それらが人の心に作用しなくては意味がありません」と語る成田さん。単に見栄えが良いだけのデザインを提供するのではなく、“スペキュラティブ・デザイン”と呼ばれる手法を好んで取り入れるのだといいます。

「“スペキュラティブ・デザイン”とは、問題提起型のデザインです。最近は、既存の問題に対して何らかの解決を図ろうとする“デザイン思考”が流布していますが、いうなればその真逆の考え方。誰かから依頼されて初めて成立するものではなく、こちら側から発信していくことが大切だと思っています」

例えば、成田さんが見せてくれたのは間伐材の名刺入れ。そこから石を素材とした名刺を取り出します。何気ない名刺交換という行為の中に、環境保全に対するメッセージが込められており、そこから一種の“気づき”が生まれるのだといいます。

「目の前にある問題に気が付かずに、そのまま、すべてを無防備に受け入れることに疑問を感じます。それが現在の日本の停滞感のベースになっていると思うのです」

近年、就職活動を行う学生の間で大手志向が強まっていたり、誰かが仕掛けた流行に安易に乗ってしまう人が多くなっている傾向にも違和感を覚えているという成田さん。そこには、大きな組織や力のある人にぶらさがろうとする、日本人ならではの志向があると指摘します。

「欧米に浸透する“自己責任”の文化に対して、日本には“他責”の文化があると思うのです。これは自分以外の他者に責任を委ねることの反作用なのでしょう。例えば、アムステルダムの街のいたるところを通る運河には落下防止の柵はありません。誰かが落下したら、日本人の発想であれば“なぜ柵を設置しなかった?”となりますが、向こうの人の考え方はまったく違います。落ちるのは自己責任だから、自分で自分の身を守る。たとえ落ちたとしても溺れないように、子供の頃から泳げるように訓練するのです」

他責の精神は、簡単に“人のせい”にしてしまうと同時に、他と同じ行動、考え方をしていたほうが楽だということにもつながる恐れがあると危惧。だからこそ、成田さんは“スペキュラティブ・デザイン”で問題提起をしながら、“本当にそれでいいのか?”“それが正しいのか?”というメッセージを発信し続けているのです。

アメリカ・ポートランドと武蔵小杉の共通点

成田さんは、武蔵小杉の街のシティブランディングを進めるうえで、アメリカポートランドの街のあり方にインスパイアされたといいます。

「1990年代後半に訪れた“エコ・ムーブメント”の中で、世界中の低カーボン都市、いわゆる環境に優しいコンパクトシティを巡った時期がありました。ポートランドも、そのひとつとして訪問。当時、この目で見てきた光景が僕の中に蓄積されていて、今回、武蔵小杉に関わることになったときに、その二つの街のイメージが合致したのです」

成田さんは、ポートランドと武蔵小杉の共通点をこのように述べます。

「まずは、地形が似ている。ウィラメット川に該当する多摩川があって、そのほとりに美しい自然環境が広がっています。両方とも、直径1,600m圏内に、あらゆるものが詰まっていて徒歩で回れるコンパクトシティで、しかも街の中にクラフトビールの工場やアーバンファームがあるのです。クラフトマンシップが根付いていて、なおかつ"ファーム・トゥ・テーブル"、すなわち地産地消が可能な状況にある。様々な切り口で共通点があると感じました」

元々、ポートランドは、アンチ大量生産・大量消費という独特な文化を有する街。それがリーマンショックで足元をすくわれ、ライフスタイルを見直そうとしたアメリカ人の間で再評価されたのだとか。"変わり者"が多い街と言われていたポートランドが、今や全米一住みたい街にあげられるようになっています。

「まさに“21世紀型の豊かな生活ができる”そんな場所なのだと、皆が気づいたのだと思います。そういった意味で、ポートランドも武蔵小杉も、文化の成熟度が高い街だといえます」

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概念だけで終わることなく、"コスギコンビビアルプロジェクト"の魅力を体現するリアルな場として「COSUGI CAFE」を開設。様々なワークショップを通して街の文化と交流をクリエイトする、コミュニティの場を用意しています。こちらのカフェで提供されるのは、もちろん、武蔵小杉エリアで生産された野菜や卵を使った料理やスイーツ。地元産のクラフトビールも楽しむことができます。

そんなカフェの片隅で、ローカルグッズの販売もスタート。物販のアイデアはアムステルダムの街を訪れた際の経験がベースになっています。

「ローカルグッズショップは日本をはじめ、世界中のどこにでもありますが、単なるご当地グッズを売るつもりはないのです。ポートランドやアムステルダムのように、いわゆるイケている街のショップはキュレーションがちゃんとされているというか、自分たちの街のアイデンティティを今一度掘り起こし、それを物販を通じて伝えようとしているのです。例えばアムステルダムには“アイアムステルダム(I Amsterdam)というシティマーケティングがなされていて、オリジナルロゴのTシャツなどのグッズがシビックプライドを醸成しています。私たちも、武蔵小杉で生産された野菜やクラフトビール、あるいはオリジナルロゴのTシャツを販売し、この街のアイデンティティを伝えていきます」

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行く先々で、人の魂に触れていく

ポートランド、アムステルダムなど、様々な街での見聞を集約。それらの経験をつなぎ、自らのフィルターを通じて、クリエイティブという形でアウトプットしている成田さんは、自らの行動指針についてこう語ります。

「“百聞は一見にしかず、百見は一考にしかず、百考は一行にしかず、百行は一果にしかず”というのが僕のモットー。すなわち、ひとつの成果をあげるために百回見て、百回聞いて、百回考えて、百回行動を起こさないとダメだと、そのためには見聞を広げなければなりません」

現地に行って、生で見て、その場で感じ、そして“なぜ、それが必要なのか?”“なぜ、そういった形になったのか?”を考えなければいけないのだといいます。

「だから、“何か”のための視察はしません。例えば、オリンピックのために視察に行くとか(笑)。そうではなくて、蓄積が目的。例えば、今、直接仕事には関係ないけれども、世界中の公園を見て歩いていたり。先日はアムステルダムで港湾地域の再開発の現場に行ってきました。もちろん、これも今は直接仕事には関係のないことですが」

現地に行ったら、現地の人の話を聞く。これが成田流なのだとか。

「アムステルダムの港湾地区、NDSMの再開発はトップダウンではなく、市民たちがボトムアップで進めています。その中心人物であるEva de Klack氏に会って、ボトムアップで進める街づくりというのはどういうものか、彼女の魂を感じたいと思ったのです。それは、WEBサイトや報告書類の文面からでは計り知れないもの。直接話を聞いて、納得して、はじめて自分の中に蓄積されていくのです」

美食の都・サン・セバスティアンで知りたいこと

そんな成田さんが今、興味を持っているのはスペインサン・セバスティアンヨーロッパ有数の美食の都と称され、スペイン全土で7軒しかないミシュラン三ツ星レストランのうち3軒が集結している街なのだとか。

「美食の街となった、その歴史に興味があるのです。話によると、ここのシェフたちは、自分の店のレシピを秘伝として封印せず、公開することで、街の魅力づくりを進めてきたと聞きます。その原点となるコミュニティ精神のあり方を探りにいきたいのです」

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最後に、成田さんにとって旅とはどういうものか?という質問をぶつけてみました。

「行く先々での経験が、僕の中でミックスされて、クリエイティブというかたちでアウトプットされると考えると、旅はまるでスムージーを作るための野菜や果物みたいなものでしょうか(笑)」

これからも旅を続ける成田さんの活躍によって、私たちは日本の街の中に、都市やコミュニティの世界標準を見ることができるのでしょう。

成田冠さん https://www.facebook.com/hajime.narita.507 http://www.creative-out.jp/ http://cosugi.jp

インタビュアー:伊藤秋廣(エーアイプロダクション

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