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プロフェッショナルの感性を刺激する旅Vol.13~キッチンデザイナー・和田浩一さんのイタリア・アルベルベッロ

プロフェッショナルの感性を刺激する旅先と、その思い出をお聞きするインタビューコンテンツ。今回は、キッチンデザイナーとして独自の活動を展開する和田浩一さんに、お仕事へこだわりやイタリアの魅力についてお聞きします。

キッチンを中心に、居住空間全般のデザインを手掛ける和田浩一さん。その独自のスタンスと徹底したディティールへのこだわりから、日本でも類を見ない、ユニークなオーダー・キッチン・デザイナーとして注目を集めています。

「自分自身は当たり前だと思っているのでよくわからないのですが、周りからは、仕事へのこだわりが“変態チック”だと。そんな風に言われています(笑)」

素材の扱い方、設備やインテリアの配置といった、デザインの基本的要素はもちろん、ともすると見過ごされてしまいそうな、細かなディテールにまで徹底的にこだわっている姿勢は、まさに驚異的。周囲が驚くのも無理はありません。

「まずは、お客様の想定以上のことは提案したいと思っていますね。その方の食生活に合致したキッチンを作りあげるために、徹底的にヒアリングを行い、お客様が思いつかないようなレイアウトを提案するのです」

和田さんは、キッチンまわりで起こっていることはすべて食生活であると捉え、ダイニングテーブルで宿題をする子どもがまず、一度自分の部屋に寄るのか、そのままダイニングに来るのかといった動線から、奥さんが料理をしているときに旦那さんがどこにいるのかまでも考慮。キッチンを中心とした空間のすべてを組み立てていくのだといいます。

「使い勝手の良いキッチンにするのは当たり前のことですが、それだけではなく、奥さんが普段より2割増しで綺麗に見えるような(笑)、そんなキッチンにしたいのです。そのためには照明計画にもこだわるし、背景の色や収納扉の位置や割り付けにも配慮します。奥さんの身長に合った高さや、旦那さんやお子さんがいる位置からの距離感などを考慮して設計すれば、料理をしている所作が美しく見えるようになるはず。そんな信念をもってデザインを実施しています」

現在の日本の中で、和田さんのような立ち位置でキッチンを設計するデザイナーは稀なのだといいます。

「世の中のインテリアデザイナーや建築士というものは、意外にキッチンに対する知識が少ない。だからキッチンメーカーやオーダー・キッチンの専門業者に丸投げをしてしまいます」

ほとんどのキッチンメーカーが、面材や天板、ユニットに収まる機器などが画一的で、まったく変わり映えのしないカタログ品のシステムキッチンを提案。そのような状態では、施主サイドが選んでいるようで、選べていないのだと指摘します。

「“自分にあったキッチン”ではなく、“自分がキッチンに合わせている”状況になっている。まったく味気のないユニット式キッチンが普及しているのは日本だけですよ。ヨーロッパを中心とした諸外国では“オーダー・キッチン”が当たりまえの状況です」

とはいえ、一方のオーダー・キッチン専門業者に依頼すると、キッチン単体で設計するため、どうしても費用がかさんでしまうことが多いと指摘。それがゆえに“オーダー・キッチン=高額”というイメージが出来上がっているのだといいます。

「ところが私は、メーカーに縛られない自由な立場で設計できるうえに、キッチンだけではなく、居住空間全体を提案。例えば大工さんに図面を渡して、キッチンを含む空間すべての施工を依頼するので、工事費用をぐっと抑えることができるのです。もちろんキッチン単体では設計料分だけ割高に感じると思いますが」

和田さんは、家族のコミュニケーションの核となるキッチンは、“居住空間の中心にあるべき”と考え、だからこそ、もっと日本の“キッチン力”をあげたいのだといいます。

「システムキッチンを否定するつもりはありませんが、もっと成熟していくべきですし、一方のオーダー・キッチンについても、もっとたくさんの人にその魅力を伝えたい。そのために、現在は工務店向けのセミナーなど啓もう活動に力を入れています」

和田さんが目指すのは、“自分らしい”ライフスタイルを実現できる、そんな“自分らしい”オーダー・キッチンの普及なのです。

イタリア文化にみられる“遊び心”に共鳴

そんな和田さんの印象に残っている旅先は、大学の卒業旅行の際に訪れたイタリアなのだとか。

「友人は車のデザインを学んでいて、自動車メーカーへの就職も決まっていたのでドイツへ行きたいといいますし、私はインテリアが専門なので、どうしてもイタリアに行きたいと。すっと平行線のままでした(笑)。そこで、まずは一緒にフランクフルトまで飛んで、一日を共に過ごし、そこから分かれて自由行動としたのです。最終日にチューリッヒで落ち合おうと」

当時のイタリアは和田さんの目には大変魅力的に映っていたといいます。1980年後半といえば“イタリアモダン”全盛の時代。機能一辺倒ではなく、そこに“遊び心”が備わっていたのだとか。

「大学の4年間で、私が“好きだ”と感じられるもののすべてがイタリア製であったり、イタリアを拠点として活動する日本人の作品だったりしたのですね。そうなると、どうしても見たくなりますよね、その原点を」

“遊び心”は豊かさにつながるし、考え方に“ゆとり”を生む。それは設計において必要不可欠な考え方なのだと和田さんはいいます。

「私は福岡出身なので、そもそもラテン系の人間(笑)。なんとなくイタリア的というか、彼らと気質が近いのですね。これはキッチンの作り方でもそうですが、とにかく日本人は“こうあるべき”と規定しがち。でも“こんなもんでいいじゃん”っていう、ある程度緩い部分を用意しておく必要があるのですよ」

調味料の位置やカトラリーの収納場所まで事細かに、完璧に決めてしまったら、使用する側が窮屈になるし、そもそも10数年が経過して家族構成や生活様式が変わったときに対応できないキッチンになってしまう。

「もちろん、押さえるべきところはきっちり押さえる。私は人よりも数多くの図面を描きますし、細かいディティールには徹底的にこだわっているつもり。でも、キッチンに限らず、人の営みに関わる設計には余白の部分が必要なんです。イタリアに行って、向こうの文化に触れたときに、“そうだよ。これでいいんだよ”って再確認できたのです」

アルベルベッロで見た“トゥルッリ”の衝撃

安宿を探し、時には夜行列車の中で夜を過ごすなど、まるでバックパッカーのようなスタイルで、ミラノローマナポリベネチアなど、イタリア全土を周遊。各地で刺激を受けた和田さんですが、特にアルベルベッロでは衝撃を受けたのだといいます。

「“トゥルッリ”と呼ばれる、円錐形の屋根と白い壁が特徴的な、この地方独特の伝統家屋群があるのですが、住民の皆さんがその100年超の古い石造りの建物をリニューアルして生活しているのですよ。今の日本でいえば“リノベーション”にあたるのでしょうが、そもそも建物の歴史が違いすぎる。こんなことが可能なのだと衝撃を受けたのです」

そもそも建設されてから200~300年も経過した石造りの建物が多いヨーロッパの国々。当初、想定されていなかった電気や水道などのインフラを、あとからどのように通していったのか。世代を超え、生活様式が大きく変わっても存在し続けることに、改めて感銘を受けたのだといいます。

「学生の頃は、それこそ、ざっくり表面的に捉えていたに過ぎなかったのですが、プロとして仕事をはじめてから、何度かイタリアを訪れるようになって、ディテールを気にして見るようになりましたね。時には建物を裏側から見たりして(笑)。まさに職業病ですよね」

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デンマークで感じた“ちょうど良さ”

そんな和田さんが今、もっとも興味を掻き立てられる旅先はデンマークなのだといいます。

「昨年はドイツ、その前にデンマークと立て続けに訪問しましたが、なんとなくデンマークがちょうど良いと感じました。イタリアほどルーズではないし、ドイツほど堅すぎない(笑)。インテリアの世界においても、ご存知のように日本全体の気分は北欧に、無意識のうちに寄っていると思います。前回は、時間もなくて、それこそ学生時代のイタリアのように、表面的にしか捉えることができなかったので、もっとしっかりディテールを見てきたいと思います」

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和田さんが、インテリアのディテールにこだわる旅を続けることで、もっと、私たちのライフスタイルはキッチンを介して豊かになってゆくような気がします。

和田浩一さん https://www.facebook.com/coichi.wada http://www.studiokaz.com/

インタビュアー:伊藤秋廣(エーアイプロダクション

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