スカイスキャナー ニュース 旅のインスピレーション プロフェッショナルの感性を刺激する旅Vol.7~革職人・小島国隆さんの久米島・はての浜

すべての記事

プロフェッショナルの感性を刺激する旅Vol.7~革職人・小島国隆さんの久米島・はての浜

プロフェッショナルの感性を刺激する旅先と、その思い出をお聞きするインタビューコンテンツ。今回は、革職人の小島国隆さんに、自らの仕事に対する“思い”や、人生を変えた久米島への旅について話を伺います。

ハンドメイドの腕時計ベルトを中心に、こだわりの革製品をフルオーダーにて提供する革職人の小島国隆さん。クロコダイルや希少価値の高いガルーシャなど、いわゆる“エキゾチックレザー”加工の技術力に定評ある稀有な存在です。

「時計そのものは、どんなに高級品で、手作りの逸品といわれるものであっても、基本的には工業製品なので、誰かしら同じようなものを持っています。その一方、手作りのベルトは、原料のどの部分をカットしたかによって模様が微妙に違ってきますし、完全フルオーダーなので、愛好家のこだわりを形にすることが可能。ベルトにこだわることで、高級時計の繊細さがさらに際立ち、世界で二つとない時計となるのです」

デザインはもちろん、原料カットから縫製まで、すべての工程をひとりで行うという小島さん。しかも、ひとつひとつの作業に対して一切妥協はありません。

「例えば、ガルーシャであれば、原料を研磨して光らせてから、ダイヤモンド粒子が吹き付けられた糸ノコを使ってカット。革が固くてミシンでは縫えないため、ドリルで小さな穴をあけて、まっすぐ縫い上げていきます。ステッチが、真っすぐなラインを描いているかどうか、表面にバリはないかなど、細部にまで徹底的にこだわります」

特に高級時計のオーナーは細部にまでこだわる人が多いのだとか。その感性を満足させるために、小島さんは全身全霊を注ぎながらモノづくりに没頭します。オーダーをもらってから、最低でも3か月の期間を要するというのも納得です。

「絶対に工程を端折ったりはしません。昔ながらのやり方にはすべて意味がある。必要だからこそ、そのひとつひとつの工程が存在しているのですからね。昔ながらの製法を踏襲しつつ、そこに現代的な感性を注ぎ込む、それが私のスタイルです」

確かに“職人がこだわりを捨てたらおしまい”だと、一般的にも言われてはいますが。小島さんのこだわりは、“やるべきこと”のレベルを超越しているようにも見えます。

「やるべきことをやるのは当たり前。イメージ通りのものが仕上がっても、お客様は喜びません。思っていた以上のものが提供されて、はじめて人は心動かされるのではないでしょうか。そこに感動が生まれる。“期待値イコール”のものを提供しているだけでは、リピーターになってはもらえないのですよ」

小島さんのこうした真摯な職人気質と製品のクオリティが口コミで広がり、個人客を中心にオーダーが殺到しています。

「これまで、様々な工房でガルーシャのストラップをオーダーしてはきたものの、“満足することがなかった”というお客様が、ここにたどり着く、というケースが増えています。そういった方が私の作ったサンプルを見て“これだ”と目を光らせてくださる。プレッシャーはありますが、そういうこだわりの強いお客様を相手にするほど燃えますし、そんな方々のおかげで私自身、成長していると思っています」

久米島の海で知った“色ムラ”の魅力

これまでの人生のほとんどを修行に費やしてきたという小島さん。なかなかゆっくり旅に出る機会はなかったといいます。

「元々は、街のテーラーで紳士服のパターンナーの仕事をしていたのですが、大手企業が安価なオーダースーツ事業をはじめて、小さな店が厳しい状況に追いやられてしまいました。新たな人生設計をと考えたときに、どうしても分業となってしまう洋服の業界ではなく、一から十まで自分一人でできる仕事じゃないとダメだと思ったのですね。そこから革職人としての、私の修行人生が始まったのです」

革の時計ベルトの量産メーカーの下請け会社に就職したという小島さん。そこで3年間修業した後に、さらなるクオリティを追求したいと考えるようになり、その会社を辞めたのだといいます。

「新たな修行先となる特注品のベルトを作る工房を探していた時でした。祖母が久米島にいる知人を訪ねたいといいだしたのですが、年齢も年齢なので、付き添いが必要だという話になり、ちょうどプラプラしていた私に白羽の矢が立ったのです。時間もありましたし、ちょうど、この先の自分の人生について考えるのによい機会だと思い、その話に乗っかったのです」

祖母が知人と過ごすときには時間ができる。どこか面白そうな場所はないかと調べていたところ、“はての浜”という場所が目についたと言います。

「ちょうど、自分探しをしていましたからね。“果て”までいけば何か見つかるんじゃないかと(笑)、そんな気持ちでした。『沖縄の海に潜ると人生変わるよ』なんていう友人の勧めもあったため、はての浜で潜ってみるかと考えたのです」

とはいえ、小島さん自身、泳ぎはあまり得意ではないし、本格的なダイビングをはじめるわけにもいかない。とりあえず久米島でシュノーケルセットを購入し、約一時間の船旅で目的地にたどりついたといいます。

「少年野球のグランドほどの面積しかない無人島で、真ん中に仮設トイレがあるだけ。本当に何もない島でした。しかし、海はめちゃめちゃ綺麗。“人生が変わる”なんて大げさだなぁと友人の言葉を思い出しながら、さっそくシュノーケリングをやってみて…驚いたのです。“人生が変わる”、これか?と」

水深わずか3メートルほどの安全な場所に潜っただけで、まるで水族館を切り取ったような光景が目の前に広がり、大きな感動を覚えたという小島さん。何よりも心動かされたのが“色”だったのだといいます。

「色って、こんなに人を感動させるのだと、改めて気づいたというか、とても驚きましたね。これまで、仕事でスーツや時計のベルトを作ってきましたから、茶、黒、紺といったダークな色合いの世界で生きてきたわけですよね。しかも、いわゆる“品質で勝負”してきたので、色の大切さなんて意識したことなどありませんでした。職人として“技術で感動させる”ことばかりを考えてきたけれども、色でも人を感動させられるのだと気づかされたのです」

そして小島さんはさらに考察していきます。

「それまで、海の色なんて“ただの青じゃないか”と捉えていたのですが、沖縄の海はエメラルドグリーンだし、潜ってみると同じエメラルドグリーンにも濃淡があり、いうなればグラデー���ョンがみられます。それが深さによって変わったり、あるいは差し込む日光の強さや角度によっても光り方が変わったり、場所によってムラになっていますよね。そういえば、日本の革製品は品質基準が厳しいがゆえに、色ムラがあったら不良品扱いになる。でも、海外の製品ではどうだろうか?と。イタリアの靴職人の中には、わざわざ手染めで色ムラを作る人もいる…。そんな風に連想していきました」

革製品に限らず、日本の製品の仕上がりは均一ですが、均一であるがゆえに面白くなかったり、奥行きがない場合もあるのでは?と思い至ったといいます。

「綺麗な茶色の革製品は、確かに品質基準は満足しているかもしれませんが、“人の気持ちは動かせない”と思ったのです。それから、自分で染色も行うようになり、すべての工程をひとりでやる、しかも徹底的にこだわるという、現在のスタイルができあがったような気がします。その思いやスタイルは、結局、独立を果たした今でも大切にしているのです」

ガルーシャの一大産地であるタイへの思い

そんな小島さんが、今現在、強く興味を引かれているのがタイなのだといいます。

「タイはこの工房の名前にもなっている“ガルーシャ”、すなわちエイの一大産地なのです。革小物が充実しているだけでなく、ガルーシャを使用したソファなど、家具類も普及していると聞きます。これまで自分が追求してきたガルーシャの源流を見てみたいというか、そこでまた新たなガルーシャの可能性を見出したいとも思っています」

“貴方にとって旅とは?”という質問に対して「非日常の世界で、日ごろの仕事を忘れてリラックスする時間」と答えつつも、結局仕事のことを考えているという小島さん。寝ていても仕事のことを夢見てしまう。夢の中でも、今よりもっと高い理想を追い続けていると言います。

「毎回、妥協することなく、100%の製品を提供しているのですが、リピートをいただいた時点で、その100%と同じレベルではお出しできなくなります。お客様は気づかないかもしれませんが、自分自身が納得できない。だから常に成長し続けなくてはいけないのです」

真摯な姿勢で仕事に向かう小島さんにとって、旅は常に仕事の源流と未来が交差する分岐点なのかもしれません。

小島国隆さん https://www.facebook.com/kunitaka.kojima.1 Galuchattail https://www.facebook.com/Galuchattail

インタビュアー:伊藤秋廣(エーアイプロダクション

地図