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プロフェッショナルの感性を刺激する旅Vol.8~シューズデザイナー・勝川永一さんのイギリス・ノーサンプトン

プロフェッショナルの感性を刺激する旅先と、その思い出をお聞きするインタビューコンテンツ。今回は、シューズデザイナー・勝川永一さんに、自らの仕事に対する姿勢や、人生を変えた旅について話を伺います。

靴をメインに、ご自身のブランド「H? Katsukawa from Tokyo」を冠した皮革デザインを展開する勝川永一さん。流行の最前線を冷静に見つめながら、独自の方法論でハイクオリティ、ハイデザインのシューズをクリエイトし続けています。

勝川さんが手掛ける靴は、単なるプロダクトとしてだけではなく、アートとしても評価されています。今年の2月、コンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、イギリス・ノーサンプトンにある美術館「Northampton Museum and Art Gallery」のコレクションとして収蔵されることに。東洋人初の快挙として全世界から注目を集めています。

「履くための靴にはある意味、限界を感じていました。もっと多様性があってもいいんじゃないかと。新しい目線を加えることで価値を増やすことができるんじゃないかと思って、アートという切り口で靴を捉えてみようと考えたのです」

そもそも、価値が多い状態=多様性にこそ人間の豊かさが見いだせると勝川さんは言います。

「極端な話をすれば、合理性を追求したら洋服も靴も、なんでもいいじゃない?という話になってしまう。でも、そればかりではない。例えば食べ物もそう。その料理に使用されている食材や生産者の話などを聞いて、視野が広がることで、人は豊かな気持ちになれると思うのです」

人間そのものも、会社に勤める自分、夫としての自分、父親としての自分、趣味に興じている自分など、色々な側面があり、多様性があるからこそ魅力的なのだと指摘。

「同じように、靴にも様々な要素がある。ファッション、プロダクト、スポーツ…。そこにもうひとつ、アートという切り口を加えていくことで、靴の可能性を広げていきたいと思ったのです。様々な価値を集約して“これが正しい”とか“これがカッコいい”と定義付けしていくのが、現在のファッションだとしたら、その真逆のアプローチで、靴の可能性を広げたいと思いました」

イギリス・ノーサンプトンで過ごした日々

元々、ファッションが大好きで、小中学生の頃から古着やヴィンテージに興味を持っていたという勝川さんが靴づくりの道に魅了されたのは大学生の頃。セレクトショップでバイトをはじめて、カッコいいスタイリングを追求するうちに、カッコいい靴を作りたいという意識が芽生えるようになったのだといいます。

「当時から、いわゆる靴を専門としないファッションデザイナーが手掛けていた靴に違和感を覚えていました。その原因を探るうちに、モノづくりの本質的な部分を理解していないと、既成概念から抜け出すことできずに、新しいモノをクリエイトできないでは?と感じるようになりました。モノ作りは深いのですよ。本質を知らないで、表面的な部分だけかいつまんで作ろうとすれば、そういうものにしかならない。だから実際に作らなきゃダメだと。作れる人がデザインしなくてはダメだと思い、靴メーカーに就職することにしたのです」

服ではなく、靴づくりの世界に興味を抱いたのは、靴が持つニッチな部分、工芸品や手仕事の集約に惹かれたからだといいます。

「どうせやるなら、卓越したいという意識はあったと思います。服の世界はそれこそ競争相手も多いし、専門的に学んできたわけではないですから敵わないと。ところが、正直、当時斜陽産業化しつつあった靴の世界に足を踏み入れる若者はそれほど多くはありませんでした」

靴メーカーでは、年配の職人に鍛えられながら、靴づくりの基本を学んでいったという勝川さん。そんな折、人生を変える大きな転機が訪れます。

「業界の若者が集まる忘年会の席で、イギリスのノーサンプトンにある靴づくりの学校の話を聞いたのです。公立の学校だから学費も安い。ノーサンプトンは靴の産地として有名な場所ですから、そこで源流みたいなものを学びたいと思ったのですね」

アルバイトで稼いだお金をはたいて渡英。学校が用意してくれたシェアハウスに住みこんで、1年半の間、徹底的に靴づくりのノウハウを学んだのだといいます。

「そこは職人育成を目的とした学校なので、とにかく、ひたすら靴を作り続けましたね。一週間に一足のペースで、在学中に50足は作りました。そのうち、自分でパターンを工夫できるようになって、それがまた面白くって仕方がなかったのです」

同級生は世界じゅうからやってきた20歳そこそこの若者たち。遊び呆ける学生を横目に、当時、31歳になっていた勝川さんは、まるで人生の遅れを取り戻すかのような勢いで、靴づくりに没頭したのだとか。

「楽しくて、楽しくて仕方がなくて、一人で夜中まで、飽きることなくコンコンコンコンと靴を作っていました。その一年半で得たものは、今の自分の血肉になっているのは確かです」

靴づくりしか見えていなかった勝川さんが、それ以外に唯一魅了されていたのが、小さなノーサンプトンの街に点在していたチャリティショップ巡り。中古品の販売を通じ、その収益を赤十字に寄付するという仕組みの店ですが、店内には歴史的に価値あるアイテムが並び、しかもそれらが格安で販売されていたのだとか。

「基本、モノ好きだし、それなりに目利きができるので、通学途中はもちろん、週末にも通い詰め、まるで宝探しのように楽しんでいました。ヴィンテージの食器を格安で購入して、それで毎日パスタを食べたり、1900年代の洋服ブラシなんか発掘したり、とにかく楽しくて、日本に帰りたくないって思っていました(笑)」

イギリス行き航空券をチェック

ノーサンプトンで確認したこと

帰国後、靴の修理会社に勤務。これまで自分の中で温めてきたデザインを形にしつつ、飛躍のチャンスをうかがっていたといいます。

「帰国したときは、もうゼロからのスタート。自分の腕で食べていきながら、さらに自分を表現していかなくてはならないわけですから、けっこう追い込まれていたんですよね。こういう時こそ、自分にとってベストなモノを世の中に発信していかなければ生きていけない、ボヤッとなんかしていられないと思いましたね。“俺って何でイケるかな?”と思ったときに、ファッションと誰もやっていないような靴を融合させることで、新しいものを作っていこうと思ったのです」

新しい価値を世の中に示したい。そんな勝川さんに、時代も味方します。

「2007年というのは、近年ではもっとも景気の良い年でした。モノが売れる時代なので、商品構成の枠が広げられる。景気が悪ければどうしても、必要最低限の品揃えとなり、機能性が求められるようになりますが、良い時代には、一見、無駄なように見えるけれども、ものすごく創造的なモノが提案できる。僕がやろうとしているのは、世の中の一番端っこの位置にある、無駄だけれども文化的なモノだと、そんな確信を持ちながら、感度の良いショップに対して提案することができました」

狙い通り、勝川さんがデザインしたシューズが大手ブランドショップで採用されます。以降、順調に実績を重ねていきました。そして、さらなる転機が訪れます。

「懇意にしている百貨店のバイヤーさんから、売るための靴ではなく、アートとしての靴を展示する企画の話をいただきました。ちょうど、新しい靴の可能性を模索していた僕の思いとそのコンセプトが合致。そこで自分の作品を発表したのです」

勝川さんの意欲は、それだけに留まることはありません。

「どうせだったら、ちゃんとした博物館や美術館の人にも見てもらおうと思いました。僕の作品が、そういった目利きの方々からどのように評価されるか知りたかったんです。そこで、いくつかの博物館をピックアップして連絡をいれてみました。その中には、僕が靴づくりの基本を学んだノーサンプトンの美術館も含まれていました。その結果、靴に対する思い入れがどこよりも強いNorthampton Museum and Art Galleryの担当者が高く評価してくれて、強いオファーをいただいたのです」

勝川さんの原点となったノーサンプトンの旅は、いわばこれまで自分がやってきたことを確信に変える行為だったといいます。

「“こうだろうな”と思っていることを実際に形にして、誰かに認めてもらうところまでもっていくのは結構大変なこと。それをひとつひとつ、小さく進めながら“確信”に変えていく。“認めてもらうために、行けるところまで飛ばさなくてはいけない”みたいな妙な使命感があって、それが強烈な向上心につながっていくのだと思います」

そして、ふたたびノーサンプトンへ

そんな勝川さんが今、興味を持っている旅先は、やはりノーサンプトンなのだといいます。

「伝統がありながら、常に進化し続けるハイブリットさが魅力の国イギリス。今もなお刺激を受けたい国のひとつであることには変わりありません。今年に入り、自分の作品がノーサンプトンの美術館に収蔵されたので、そこに住んでいたことや触れた文化にあらためて触れるような、原点に戻る旅をして一区切りとしたいのですよね。そこからまた、新たな旅を始めたい、そんな心境です。できれば僕だけではなく、多くの日本人の方にノーサンプトンの良さを知っていただきたい。そして美術館と僕の作品に触れていただければと思います」

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勝川永一さん https://www.facebook.com/HKatsukawa https://www.instagram.com/hkatsukawa/ http://hkatsukawafromtokyo.net/

インタビュアー:伊藤秋廣(エーアイプロダクション

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