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プロフェッショナルの感性を刺激する旅Vol.6~シェフ・松崎亮輔さんのフランス・リヨン

プロフェッショナルの感性を刺激する旅先と、その思い出をお聞きするインタビューコンテンツ。今回は、シェフの松崎亮輔さんに、お仕事に対する“思い”や、人生を変えた旅の思い出についてお話を伺います。

表参道を根津美術館方面に進んだところに、毎晩、予約でいっぱいの隠れ家フレンチレストラン「レスアルカーナ青山」があります。「週末を中心にウェディングのチャペルとして利用する荘厳な空間に、平日の夜限定で登場する20席ほどのレストランで、本格的なフレンチのフルコースを提供。フォアグラなどを使用した、非常にコストパフォーマンスが高い2コースをご用意しています」と、総料理長として同店をマネジメントする松崎亮輔さんは語ります。

もちろん“料理人”であり続けてはいたものの、松崎さんのキャリアは一般的なシェフとは少々毛色が異なっています。名門の調理師学校の講師として20代を過ごし、その後は都内の人気店で腕を振るってきたため、これからの“料理人のあり方”に対する意識が人一倍強いようです。

「うまい料理を作るのは重要ですが、それは当たり前の要素。料理人でありながら、経営者としての側面も必要です」

料理人が目ざすべきは“独立”ではなく、あくまで“起業”が理想。そんな考えを持つに至った背景には、現在の飲食業界の構造的な問題があるといいます。

「自分の店を持ちたいと考える料理人が多いがために、巷に小さな店が増え、それによって従業員の奪い合いになる。あまり良いとはいえない待遇でハードに働かされるため、どうしても長く続かない、そんな若者が増えて、“夢が持てない業界”になってしまっているのです」

教育者でもあった松崎さんは、そんな状況に対して危惧を抱き、“業界そのものを変革したい”という思いから、常に経営が学べる企業体に身を置きながらシェフとしてのキャリアを重ねてきたのだといいます。

「実は、『レスアルカーナ青山』に入る前も様々な企業やホテルから声がかかったり、出資するから店を持たないか?と言ってくださる方もいました。しかし、私はこのレストランを経営する、ベンチャー気質溢れる株式会社エスクリへの参画を決めました。若く勢いがある企業に身をおいて、自らが目指す店づくり、若手の育成ができると感じたのです」

常に変革が求められるベンチャー企業とフランス料理には相通ずるものがあるのだとか。「フランスには、海外文化を柔軟に取り入れる文化があって、実は頑なに伝統を守り続けてきたかのように見えるフランス料理も、これまでずっと変化を続けてきた。だからこそ、世界で一番の料理と言われるまでになっているのです」

変化を続けながら継続すること。松崎さんが目指すのは、そんな料理であり、そんな業界であるといいます。

リヨンで本物を知ってしまった

そんな松崎さんのキャリアの中で、もっとも重要な旅先はといえば、調理師専門学生時代に1年の研修期間を過ごしたフランスリヨン

「リヨンはパリの南、TGVで3時間くらい行った場所にあるフランス第2の都市。街に2つの川が流れており、流通に便利な立地であったこと、そして肥沃な大地が広がっているため、食材が豊富であったことから、“食の都”として知られています」

もちろん、食材のクオリティも高い。「センセーショナルだったのは、ニンジンの香りです。皮をむいた瞬間に沸き立つ、その鮮烈な香りは、今も忘れることができません」

リヨンには古城をリニューアルした調理師専門学校があり、敷地内に宿舎と調理場、そして客席が用意されているのだとか。そこで3組に分かれた学生が、“作る”“食べる”“接客する”と順番に役割を変えながら、実習を重ねていくのだといいます。

「半年間は、ひたすらそこで実習を重ね、残りの半年間は、現地の三つ星レストランで修行をさせてもらいました。休日にはできるかぎり街にでて、あらゆるものを吸収しようと心がけていましたよ。20歳でしたからね。すべてが新鮮に映りましたよ。しかも、本場にいるわけですから、何を見ても、何を食べてもすべて、“これが本物なんだ”と噛みしめながら過ごしていました」

20歳だった松崎さんはその時、「本物のフランス料理を食べて過ごしてきたフランス人が日本にやってきて、自分が作った料理を食べたとき、『これはフランス料理だね』と、そう言ってもらえるようになりたい」と強く思ったのだといいます。

「日本の食材で日本風のフランス料理を作りたいというより、そこで本物を知ってしまったがゆえに本物を作りたいと。もちろん、すべてフランスの食材を使うわけではないし、ゲストも日本人なので、今、100%本物を用意しているかというと微妙に違うとは思いますが、自分の中で本物はこうだったから、ちょっとアレンジしてこうお出ししていますよという、裏のストーリーがあるかどうかが重要だと思います」

料理人として、本物を知ることが重要だと考える松崎さんはこう続けます。

「模倣するものがあって、それをアレンジした人がいて、それを見た誰かがまた、それをアレンジしていく。そんな連鎖の中で、ひとつ手前の人が作ったものしか見ていないとしたら、それは長く愛される料理にはならない。数年で消えてしまうのですよ」

もちろん、調理師専門学校の講師として教鞭を執っていた時代にも、その思いは揺らぐことはなく、料理人に必要な根本的な指針のひとつとして生徒に伝え続けてきました。

「日本でも多くのシェフが本を出版していますが、それを読むなら、そもそもそのシェフはどこで働いていて、フランスの誰の薫陶を受けているから、こういう料理になっていると。では、そのフランス人シェフはどういう料理人なんだというところまで掘り下げてみるべきだと伝えていました。結局、見える部分をマネしていてもダメだと。源流の部分から紐解いていかなければ、今、自分が作るべき料理が見えてこないのです」

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在来作物が豊富な山形県鶴岡市に注目

バイクを趣味としている松崎さんは今、日本中の漁港や生産地を回りたいと考えていると言います。

「調理場に届けられた段ボール箱の中から現れたニンジンをかじるのと、生産された土地で、その場の空気に包まれながらかじるのでは、食材から受けるインスピレーションが大きく変わります」

生産者の話を聞いたり、実際の現場を見るということは、感性や第六感が刺激をうける行為。料理人として自分を伸ばすうえで必要なことだといいます。

「日本では“F1品種”という、種ができない農作物の生産が推進されてきました。でも、昔はそんなことはなく、各農家が自分たちで種を作って、翌年に植えていたはず。今でもそういった農法を守っているのが“在来作物”と呼ばれる農作物で、実は山形県の鶴岡には数多く存在しています。山奥の秘境で細々と栽培しているのですが、とにかく在来種ならでは味わいがあるのですよ。でも残念ながら、あまり知られていないし、流通条件が悪いため、市場にも出回らない。このままでは廃れてしまうという危機感があります」

だからこそ、松崎さんのような料理人が調理をしたり、ゲストに提供し、発信していくことで、守っていけるのだといいます。

「私たちは、料理を提供したゲストから“ありがとう”をいただくことができますが、いうなれば、素材を調理して盛りつける役でしかない。その料理が成立するためには、農家の方やお皿を作る陶芸家や、その他多くの関係者が連なっているのです。結局、シェフは、その“ありがとう”をもらう窓口でしかないのですね。その“ありがとう”を業界全体に還元したい、正しいことをしている人を応援したいと思っています」

松崎さんにとっての旅は、自らのルーツを知り、料理人としての使命を再認識させるものかもしれません。

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松崎亮輔さん https://www.facebook.com/ryosuke.matsuzaki

レスアルカーナ青山 https://resarcana.jp/aoyama/

インタビュアー:伊藤秋廣(エーアイプロダクション

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