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プロフェッショナルの感性を刺激する旅Vol.15~俳優・田村幸士さんのタイ・クラビ

プロフェッショナルの感性を刺激する旅先と、その思い出をお聞きするインタビューコンテンツ。今回は、俳優として活躍する田村幸士さんに、ご自身の生き方やタイ・クラビの魅力についてお聞きします。

舞台やTVドラマ、映画、ドキュメンタリーなど幅広いフィールドで活躍する俳優・田村幸士さん。演技と向き合う自らの姿勢の“原点”について、とても静かな口調で語ってくれます。

「演じる役柄に対するアプローチは、役者それぞれに違ってくるとはと思います。その役に憑依する人もいれば、役を客観視する人もいる。私は、どちらかというと後者のタイプでしょう。それには、これまでの自分の生き方が色濃く現れている。常に周囲の空気を敏感に感じ取り、人の目を気にしながらがら生きてきたからなのでしょう」

父親は田村亮、伯父は田村高廣・田村正和、そして祖父は昭和を代表する名優・阪東妻三郎という、あまりにも有名な俳優家系に生まれ育った田村幸士さん。少年時代からずっと、周囲の大人たちに聞かされてきた言葉がありました。

「小さな頃から僕には“正和の甥”“亮の息子”という前置詞があった。周囲の人たちからは『あなたが悪いことをしたら、お父さんや伯父さんのお仕事がなくなっちゃうから。あなたは良い子でいなくてはいけないのよ』と言われ続けてきたのです」

お父様のことも伯父様である高廣さん・正和さんのことも好きだった。だから幸士さんは、その言葉を素直に受け止めます。いや、少しだけ無理をして受け止めざるを得なかったのかもしれません。

「自分のためというより親のために、人からどういう風に見られていて、それに対してどのように行動すればいいのか。そんなことを常に考えながら行動していたので、自分の人生すら客観視する習慣が身に染み着いてしまったのでしょう」

学生時代から、役者にならないかという誘いはいくつもあったのだとか。ところが幸士さんの中には、それとはまったく別な思いがありました。

「自分のやりたいことで、前置詞のない自分として認められるような仕事に就きたいと。2世、3世なんて、まっぴらごめんだと思っていましたね」

大学を卒業してIT企業に就職。それからスポーツ選手をマネジメントする企業へと転職を果たしたのだといいます。

「学生時代からスポーツが大好きでしたからね。その会社では日韓ワールドカップやソルトレイク五輪に出場する選手たちのサポートをしていました」

スポーツを支援する立場になって、日本のスポーツ界の問題点がいくつか見えてきます。人気スポーツとそうでないスポーツの格差、日本では欧米と違ってスポーツにエンターテインメント性が欠如しているため、見られることに慣れていない日本人選手が本番に弱いことなど。そんな現状を目にするにつれ、自分が何か役に立てないかと考えます。

「スポーツを盛り立てるにはマスコミの力が不可欠。そこで番組製作会社に転職してマスコミ側からスポーツを盛り上げたいと模索していたんです。でも新人ですし、若かったですから、甘い企画書を書いてもなかなか採用されません。それよりも、まずは“現場を覚えろ”と、NHKに出向。ADとして日々、番組の制作に携わっていたのです」

TV制作の現場に立って幸士さんは改めて、内側からでなく外側から俳優家系としての田村家を客観視することになります。

「番組のプロデューサーが、僕の知らない、業界における田村家のすごさみたいなものを教えてくれる。さらに当時、朝の連ドラに出演していた高廣伯父さんの演技を初めて目の当たりにして驚いたし、特集番組の編集に携わった時に、はじめて祖父の映像をしっかり見て、感動を覚えて涙してしまいました。僕が知っているようで知らなかった田村家がそこにあったのです。いちテレビマンとして客観的にそれを評価できたのと同時に、歌舞伎のように継承できるわけではないけれども、この素晴らしい人たちが作ってきた田村という俳優一家を絶やしたくないと思ったのです」

もちろん、不安もあったといいます。すでに年齢は30に近く、これまで歩んできた人生というものがある。“親の七光り”と言われるのも嫌だ。葛藤する中、一人の親友の言葉が背中を押してくれました。

「世界で活躍するスキーヤーの皆川賢太郎は僕の人生の中で唯一、心を割って相談できる相手。彼は『田村家の三代目と言えるのは、全地球上でたったひとり。それって本当にすごいことだよ。いつも控えめだったお前もいいけれど、戦っていける武器を生まれつき持っているということをありがたく受け止めて、生かすべきだって、オレはずっと思っていた』といってくれました」

今は素直に前置詞を受け止め、それに甘んじるのではなくストイックに、そんな恵まれた環境にある自分にしかできない役作りを確立しつつある田村幸士さん。今では“田村正和の甥”と言われることに抵抗はなく、「似てなくてごめんね」と笑っていえるようになったといいます。すべてを素直に受け止めるようになって、“自然体”という言葉がしっくりくるようになったといいます。

「今までのキャリアは確実に生きていると思っています。サラリーマンを体験したこと、スポーツ振興に身を投じたこと、テレビマンとして番組の裏方を支えたこと、多様な僕が僕の中に備わっています。個性を押しつけるのではなく、遅咲きのこんな僕にしかできない自然なリアクションがある。それが僕の持ち味だと自信を持って言うことができます」

クラビの夕焼けを見て考えたこと

そんな田村幸士さんが心惹かれるのは、大自然に満ちあふれた、心が裸になれる場所なのだといいます。

「過保護じゃない場所がいい。何もなければ人間は自分で考えて何とかするし、叶わないとわかったら受け入れられる。ちゃんと認めて受け入れたならば、人って優しくなれると思うのです」

カナダウィスラーアラスカソルトレイク、そしてベトナムのハロン湾では一人旅を楽しみました。舞台やドラマの撮影など、長期に渡る仕事が一段落したタイミングで、必ずと言っていいほど、自然の中に身を置きたくなるのだとか。それは、自分の中に蓄積された、あらゆるものをきれいさっぱり洗い流す大切な時間。

「ずっと演じていると、身体の中に別の自分が入っているわけですよね。それをきれいさっぱり洗い流したいし、舞台であれば、スタッフや演者はもちろん、客席に座っている観客の皆さんともコミュニケーションをとっています。それこそ、言葉だけではない、自分が持ちうるすべての表現手段を持って全力で。まさに自分の魂のすべてを使い切るような行為です。そういったものすべてを流して、ただただ田村幸士という一人の人間として無言のまま受け入れてくれる。自分という存在をニュートラルに置いておくことができるのが大自然という場所なのです」

優しいだけでなく恐ろしい面もある。良いも悪いも、美しいも汚いも過不足なく存在している自然から何かを受け取ったり、学ぼうというわけではない。ただ惹かれていくのだといいます。そこに含まれているだけで充足されるから。

「先日はタイクラビの近くにあるランタ島で3日間滞在しました。一泊900円くらいのバンガローで宿泊。二日目は大雨の中で雨漏りと戦いながら缶詰になっていても楽しかったし、地元のおばさんが焼いてくれた素朴なパンケーキも本当に美味しかった」

ここランタ島で何よりも素晴らしいのが海に沈む夕陽。これほど美しく、そして大きく広がる夕焼け空は初めて見たといいます。

「ずっと見ていたいと思いました。どうして、こんなにまで飽きずに見続けていられるのか。恐らく、そこに意図や演出というものが一切なく、ただただ文字通り“自然体”に動いているから。そこに駆け引きもありません。あっちが自然体でくるから、こっちも自然体になる。究極のコミュニケーションですよ。これって舞台をはじめとする、すべての表現にも通じる話だと思ったのです」

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グランドキャニオンへの想い

そんな田村さんが、現在、興味を引かれているのがアメリカグランドキャニオン。ホースシューベンドに行きたいのだとか。

「先日、博多座で公演していた舞台を終えたあとで車を借り、湯布院や熊本まで出向いて熊本地震の被害状況を見て、復興に向かって前向きなキモチで活動している地元の方々とふれあいました。その際、阿蘇に回って外輪付近の道路を走ったときに、雄大さと底知れぬエネルギーが同居する、その圧倒的な大自然のエネルギーを目の当たりにしたのです。それを見たときに、さらにむき出しの大地を感じたいと思ったのですね」

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田村さんにとっての旅とは、“はじめて”を体験する行為だといいます。

「この年齢になると、“はじめて”の体験がどんどん少なくなっていく。それって人間の感性にとって危険なことですよね。最近は、インターネットで簡単に調べることができて、何もかも知った気になっていますが、それはあくまで情報でしかない、そこには経験が欠如しています。知らないこと、“はじめて”のことを経験すると、人は必ずといっていいほど失敗する。失敗から学ぶことは本当に多いのに、失敗しないようにインターネットで調べた最短方法で答えを掴んでしまうと、本当に薄っぺらな人間になってしまいそうで怖いんですよ」

田村さんはこれからも、自らの手で様々な経験を求めながら、人間としての奥行きと演技の幅を拡大していくのでしょう。

田村幸士さん https://www.facebook.com/tamurakoji http://gcp-lab.net/koji/

インタビュアー:伊藤秋廣(エーアイプロダクション

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